2025年7月22日に、全上場会社を対象としたIR体制の整備義務付けに伴い、IRの在り方を検討する際の参考として、「IR体制・IR活動に関する投資者の声」が東証より公表されております。
本稿では、公表された「IR体制・IR活動に関する投資者の声」の概略を取り纏めております。
1.投資者からの期待
<総論>
■ 投資者からは以下が期待されている
・上場会社が、⾃らの⾔葉で中⻑期的な経営戦略や将来のビジョンを発信していくこと
・個別面談などの双方向の対話を通じて得られた投資家からのフィードバックを、経営上の課題として認識のうえ、企業価値向上に繋げていくこと
■ IRの専門部署や担当者の形式的な設置に留まらず、資本コストや株価を意識した経営の要請等を踏まえた企業価値向上に向けた取組みの一環として、必要なIR体制やIR活動について検討し、取組みを進めていくことが求められる
<社外取締役とのコミュニケーション>
■ 投資者からは、経営者やIR部門によるIR活動に加えて、経営を監督し、一般株主の⽴場を代弁する役割を担う社外取締役とのコミュニケーションを期待する声も寄せられている
■ 例えば、以下のようなアジェンダについては、その実効性を評価する観点から、社外取締役との対話が重要となる場合がある
・取締役会において、経営上の重要課題等に関して実効的な議論がなされているか
・コーポレート・ガバナンス体制の実効性や、少数株主保護のために必要とされる支配株主からの独⽴性が確保されているか
■ 社外取締役が、平時から積極的に投資者との対話に応じるとともに、上場会社としても、社外取締役が適切にコミュニケーションを図れるような体制を整備していくことが期待されている
2.IR体制-改善が期待される事例
■ 充実したIR活動のための体制(専門部署、経営陣の関与等)が整備されていない
・総務部などの管理部門や広報部門がIR業務を兼務している場合、多忙を理由に面談を断るケースや、専門ではないとして中⻑期的な経営戦略や資本政策、将来のビジョンについて議論ができない
▷ IRの担当役員や専門部署を設置し、実効的なIR活動を⾏うために必要な体制の確保が期待される
・IR活動が担当部での実施に留まり、経営陣が関与しない体制となっている企業や、経営陣と担当部の説明にズレが生じている
▷ IR部門をCEOの直轄としたり、経営企画部門にIR機能を置く形で、経営陣や経営企画部門と連携のとりやすい体制を整備することが期待される。また、同じ目線をもってIR活動を⾏うという観点では、中⻑期的な経営戦略などが中期経営計画等の形で開⽰されていることも重要
・IR活動を通じて得られた投資家からのフィードバックについても、経営陣に議事録を形式的に展開するだけなど、企業価値向上に繋げる体制が構築されていない
▷ 対話で得られたフィードバックについても、定期的に取締役会に報告・議論するなど経営に生かしうるような体制を整え、企業価値向上に繋げる取組みが期待されている
3.IR活動(IR説明会・個別面談)-改善が期待される事例
■ IR説明会による情報提供を対面の参加者等に限定
・未だにIR説明会を対面開催のみとしたり、対面参加者限りの資料を配布するなど、投資者への公平な情報提供を意図的に⾏っていない
▷ IR説明会は、経営陣⾃ら説明や質疑応答を⾏うことで、投資者と中⻑期的な経営戦略や将来のビジョンを共有し、中⻑期的な信頼関係を構築できる非常に重要な場。海外投資家を含めた幅広い投資者が説明会に参加できるよう、オンライン配信の実施等が期待される
▷ 単に実績作りのための開催ではなく、コンテンツを充実させたり、質疑応答の時間をオンライン参加者も含めて十分に確保するなどして、IR活動の場として積極的に活用することが期待される
・アーカイブ配信やスクリプトの提供において、質疑応答部分をカットしたり、経営上の重要な課題について質疑がされても、その部分だけ意図的に掲載せず、要旨として公表している
▷ 投資家にとって、説明会の場で、どのような質疑応答がなされたかは重要な情報であり、質疑応答部分を含めた公平な情報提供が期待される
■ 合理的な理由もなく、個別面談(対話)に応じない
・一部の経営者コミュニティで、投資家との対話を避けるノウハウが共有されている。面談に前向きな企業が増えている中、合理的な理由なく断る企業が目⽴っている
・フェアディスクロージャーを理由として個別面談に応じない企業も存在するが、中⻑期的な経営戦略や資本政策への理解を深め、投資者の⾒⽅を伝えるために面談を依頼するのであり、インサイダー情報を聞きたいわけではない。また、⻑期投資にあたっては、足元の課題に対する経営者の認識や考え⽅が分からなければリスクを判断できないため、定期的な面談の機会を設けることが重要
▷ 投資者は、経営者等が、信念をもって⾃らの⾔葉で、エクイティストーリーを発信する企業に感銘を覚える。投資者との継続的な信頼関係を構築していくためには、経営陣が中心となって、積極的に面談に応じる姿勢が必要不可⽋
▷ アプローチする投資家を定めて戦略的にIRを⾏う企業もあると思うが、企業価値向上の観点からは、既存の投資家に限らず面談することも期待される。多忙で時間が取れないということであれば、スモールミーティングの活用も一案
・対話のアジェンダに関わらず、社外取締役との面談を受け付けていない企業は多い。社外取締役の意向を確認するまでもなく、担当部に断られてしまう
▷ 投資家が、取締役会やガバナンス体制の実効性等を理解・評価するうえで、社外取締役との対話は非常に重要。社外取締役は、本来、少数株主の⽴場を代弁すべき存在であり、積極的に面談に応じることが期待される
4.投資者への期待
■ IR活動を通じて、積極的に株主や投資者と信頼関係を構築しながら、企業価値向上に取り組もうとする上場会社が増えている
■ そうしたなかで、投資者側においても、上場会社によるIR説明会や個別面談を充実したコミュニケーションの場にできるよう、事前の十分な企業リサーチや、中⻑期的な経営戦略等に関する投資家の目線が伝わる形での建設的な対話が期待されている
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