東証の「第1回IPO実務連携会議」開催について

 東証は、グロース市場の機能発揮に向けた対応の一環として、上場準備の理解促進のための取組みを進めています。この度、証券会社・監査法人等のIPO実務に関わる関係者と定期的に意見交換を行うため、「IPO実務連携会議」を設置し、2025年1月22日に第1回会議を開催いたしました。
最近のIPOの状況を踏まえ、「企業成長の手段であるIPOが目的化している」、「IPO準備に関する不正確な情報が飛び交う」という問題意識を前提として、当会議を通じてIPOが実現しない要因などの意見交換を行い、IPO準備を進めるうえで基本となる考え方や留意点について取りまとめ、IPO準備を行う経営者向けに情報発信を行いたいとしております。
東証では、IPO準備を進めるうえで基本となる考え方や留意点について当会議で議論された内容は、「上場審査に関するFAQ集」と同様にQA形式に取りまとめたうえで、公表することを想定しております。

出席者からの意見・感想(抜粋)

 出席者(証券会社・監査法人等の実務に関わる関係者)から以下のような意見・感想がありました。

〇 IPOが実現しない要因について

・IPOが実現しない要因は主に4つある。①事業計画の作り方が甘い、②キーパーソン(CFOや経理部長)の退職、③管理面の組織運営、④拡大する組織への対応(コンプライアンス、ミッション・ビジョンが行き届かない)
・業績が一番大きい。証券会社と契約してからもしくは監査法人がショートレビューしてからとなると、IPOに至る会社数はかなり少ない
・業績が原因でIPOを延期することはよくあるが、成長できる体制を整備してからIPOするということは悪い話ではない

〇 IPOが目的化しているのではないかという問題意識について

・IPOが目的化しているのではないかという問題意識については同意(多数)
・IPOの目的としてよく挙げられる信用力向上や人材の確保についても、そのメリットをどう活かすのかがIPO準備会社においてよく描けていない実態もある
・スタートアップ側もIPOを急がず、きちんと事業を育てて体制を整えていくという意識が高まっているように感じるが、株主のファンド期限などもあり、IPOを急かされる現状があるのでは
・IPO準備会社は総じてIPO後の成長を目指している。IPOの目的を明確化してからIPO準備を始めましょうというメッセージが本当に機能するのか疑問
・リスクマネーを供給する立場からすると、IPOでExitできるので資金を供給できていることも否定できない。様々な立場の方がいることを意識した上で情報発信すべき

〇 グロース市場における上場目的の開示の取り組み(2024年6月~)について

・IPO直前に改めて上場目的を見直し、投資家に開示するのは良い機会になると思う一方で、実態としてはまだまだ形式的な部分があると感じている
・IPO準備の過程で上場目的が変わることもある。IPO直前に改めて上場目的を確認した際に、ギャップが生じることも実務上あるのでは
・現状の上場目的の開示は言い訳がましく見えるものもある。また、上場目的を特に気にしているのはロードショー中の機関投資家であり、上場日まで開示されない現状の仕組みには改善の余地がある

〇 IPO準備段階における不確かな情報の存在について

・不確かな情報が存在しているという問題意識については同意(多数)
・IPO準備の課題への対応は各社各様であり、一律の答えがないという前提の中、証券会社の公開引受部が個社に対し指導した内容が経営者間で連携され、他社はこう言われたと聞かれる
・社外役員やIPO準備経験者が、自身の経験を語ることで、不確かな情報が広がる。その場合、会社ごとのビジネスモデルの違いなどを説明することにより解決している
・前提条件が伝わっていないがゆえに、不確かな情報が広がる。色々なIPO関係者が、こうしたら上場審査をクリアできたという成功事例が独り歩きして伝わっていたり、社長やCFOが話すIPO体験談が誇張されて独り歩きしたりするのだろう
・過去にIPO準備やその指導に携わった者が、アップデートされていない過去の経験に基づいた助言を行っている現状もある
・IPO関係者の中で経験が少ない人は杓子定規な回答をしがち。また、これでは取引所審査に通らないと東証を盾にして、自分の主張を通すようなことも見られる
・関連当事者取引について、東証からは、まずはその必要性や条件の妥当性を説明し、もし説明ができないようであれば解消するように情報発信されているが、多くのIPO関係者は原則解消するよう指導している。本来の趣旨を理解した上での対応が重要
・予算統制について、予実の乖離要因の分析・説明が重要であるが、それよりも実績を予算に合わせに行くマインドが強い会社を多く見かける
・東証への相談は、どういったことを聞けば良いか分からないという声もある。どのようなことをどう聞けば良いのかを情報発信できると、「都市伝説」の解消に繋がるのでは
・真偽が確かでない情報であっても、本質的には誤りでないことも多々ある。丁寧に説明していくことが必要であり、表現は慎重に検討すべき

〇 上場審査に関するFAQ集(2024年5月公表)について

・シンプルなメッセージは非常に分かりやすいが、IPOを指導する関係者からは「ただし」の部分が重要。取引所の立場だけでなく、IPO関係者それぞれの考え・目線があることも汲み取ってほしい
・IPO関係者の位置付けや目線の違いを示した上で、東証の上場審査ではここを見ていると案内した方が、誤解なくIPO準備会社に伝わるのでは
・FAQは読み手にとって都合の良い解釈をされてしまう可能性がある。どういった課題があるかを明確に書いた方がよいのでは
・予算と実績が乖離した場合の取扱いが説明されているが、前提条件やタイムリーな修正開示が重要と強調されすぎ。業績予想の下方修正が投資家からどう受け止められるのかという点にも言及いただきたい
・例えば、子会社上場では親会社の出資比率が過半数を割らないといけないと思い込んでいる会社や、資本政策を申請期にしてはいけないと思い込んでいる会社もいる。今後の拡充にあたっては、そのような内容を発信していくことも有意義
・今後もFAQが拡充されていくのであれば、FAQ集と新規上場ガイドブックとの整合性には留意すべき。位置づけの違いも整理するべき

〇 IPO準備会社の経営者に発信すべき情報について

・IPO準備を始める時に、上場会社になる以上は何を求められるのか、それに見合うIPOのメリットがあるのかをよく考え、IPOを行うべきかを検討いただくことが重要
・ステータスを感じてIPOを目指し、コストやデメリットを検証しないまま進んでしまう会社も多い。色々な経営判断がある中で、IPOのみを選択肢としない企業経営を心掛けていただくことが重要
・早い段階で社外取締役を選定し、自社と世間との認識ギャップや上場会社として求められることについて客観的なアドバイスを受け、経営者の視野を広げることが望まれる
・IPO後に安定的にビジネスを広げていくためには、どのような投資家に入ってもらいたいか、そのためにどのような準備が必要かという、IR・SRの観点も重要
・IPO後を見据えて、何百もの機関投資家に積極的にアプローチしている会社もあり、それは良い事例。IPOをゴールとするのではなく、その先を見据えたアクションをどんどんやっていただくよう促していくことが重要
・証券会社が、取引所審査をクリアするための指導に終始している。上場後の成長を意識した体制整備をしていただけるよう、証券会社としても取り組んでいきたいし、東証からも企業・経営者に働きかけてほしい
・スタートアップへの期待が高まっている中、IPO時のバリュエーションに目線が行きがち。一方で、社会的信用を得るためにはガバナンス・内部管理体制といったより基礎的な整備も重要。今後出すメッセージでは、その点について、経営者に意識を高めていただけるような提言も含められると良い
・上場後にコーポレートガバナンス上の問題が生じることがあり、経営者も問題意識を予め持っていた方が良い。例えば独立役員の重要性や不祥事予防のプリンシプル等、上場会社になるにあたり本質的な部分を理解していただけるよう、情報発信を行うべき
・海外の機関投資家等から、コーポレートガバナンスが非常に弱いという指摘を受ける。コーポレートガバナンスの整備は企業価値向上に直結すると、経営者の皆様に認識していただけるよう、促していけると良い
・IPO準備会社から、IPO準備に関して唯一絶対の正解があるかのように結論を求められることがあるが、自社のビジネス特性などに応じて、会社自身で考えて結論を出すことが望ましい

〇 その他IPO実務に関する課題・問題意識

・グロース市場で導入された「事業計画及び高い成長可能性に関する事項」の開示制度について、開示したことを達成できているか、達成できている場合に株価がついているのかどうか、色々と分析できることがあると思う
・フォローアップ会議でされているグロース市場の機能発揮に向けた議論の状況を踏まえ、当会議でもIPO実務の担当者の視点でディスカッションできれば
・フォローアップ会議でのIPO後の成長の議論と当会議でのIPOの準備の議論は、足並みを揃えてコラボレーションしながら進められると良い
・IPO準備において監査法人のショートレビューが最初のステップとなる会社が多く、IPOに向けた最初の助言となるため、そのクオリティは重要。監査法人の実務担当者が、取引所や証券会社の意見を聞きながら感度を高める機会を多く設けられると良い

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