2025年7月9日に開催された第22回「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(以下、「当会議」)では、「「資本コストや株価を意識した経営」に関する今後の取組みについて」「IR体制・IR活動に関する投資者の声について」「グロース市場における今後の対応について」「スタンダード市場の今後の方向性について」「経過措置適用会社の状況について」のテーマについて議論されました。
本稿では、当会議において取り上げられたテーマのうち、特に多くの会社への影響があると思われる「グロース市場における今後の対応について」を取り纏めております。
1.グロース市場の⾒直しに対する反応と今後の対応
■ グロース市場を「⾼い成⻑を目指す企業が集う市場」として追求していく方向性には、多くの賛同意⾒
■ (2025年4月22日開催の当会議で議論された)上場維持基準の⾒直しについて、新基準への適合に向けて成⻑戦略をより良いものへと⾒直そうとする上場企業の動きも⾒られ、機関投資家やスタートアップ関係者などから支持が得られている
■ 上場準備企業においては、新しい上場維持基準を⾒据えて意欲的に成⻑戦略を描いたり、上場後の成⻑を意識して前向きにIPOの時期を再検討するなど、ポジティブな変化が⾒られる
一方で、IPOの主幹事証券会社探しに苦戦している(一部の上場準備企業)、助走期間が短い(現⾏基準を前提に対応を進めてきた上場企業・上場準備企業)、適用開始時の市況が心配(売上や利益は増加しているものの時価総額が伸び悩む上場企業)などの声が寄せられている
⇒⾼い成⻑を目指す企業であれば100億円未満での上場も歓迎と周知、⾼い成⻑を目指す企業の成⻑機会確保へ配慮する
■ 前向きに⾼い成⻑を目指そうとする経営者からは、グロースに上場するメリットや、成⻑戦略の再検討にあたっての材料の提供など、東証による支援を期待する声も寄せられている
⇒東証として、グロースにとどまるメリットの提供、⾼い成⻑を目指す企業に対する様々なサポートをしていく方針
2.IPOを目指すスタートアップや関係者への周知
■ 今後、グロース市場へのIPOに関する東証のスタンスについて、IPOを目指すスタートアップや関係者に周知(スタンダード市場へのIPOの選択肢もあわせて伝えていく)
<グロース市場へのIPOに関する東証のスタンス>
・新規上場基準の⾒直しは⾏わないため、引き続き、100億円未満の規模で上場し、上場後に⾼い成⻑を目指すことは可能。そのような⾼い成⻑を目指すスタートアップがチャレンジする環境を引き続き維持するとともに、東証としても歓迎したい
・結果として「5年100億円」の基準をクリアできなかった場合でも、スタンダード市場に移⾏可能(移⾏後に成⻑戦略を再構築し、グロース市場への再上場も可能)としており、積極的に挑戦できる制度設計としている
・引受証券会社に対して、引受方針は各社各様であると理解しつつも、⾼い成⻑可能性を有する企業を連携してサポートできるよう、コミュニケーションを図っていく方針
・東証としても、グロースにとどまるメリットの提供や、⾼い成⻑を目指す企業に対する様々なサポートを進めていく
3.グロース市場上場維持基準の⾒直し案
■ 新基準の適用開始は原則2030年とするものの、企業が追加期間を設けて新基準への適合を目指す計画を開⽰する場合、その計画期間はグロース市場への上場を可能とする例外案を策定(2025年9⽉を目途に制度要綱を公表予定)
<3月期決算会社の日程例>
① (2030年3月末まで)時価総額100億円未満の場合、「事業計画及び成⻑可能性に関する事項」において、100億円を意識した成⻑戦略を開⽰・実⾏
② (2030年時点)新基準100億円に適合するために追加で必要な期間とその計画を開⽰した場合、当該期限まで上場を認める(上場5年未満の企業も2030年時点で計画を開示した場合のみ対象、2030年3⽉末(上場5年未満の企業は上場5年経過後)からの1年間は改善期間とし、改善期間終了後が猶予期間となる)
③ 制度上は追加で必要な期間についての上限を定めないが、⻑い計画では投資者からの支持を得られない旨を十分に周知
4.スタンダード市場への市場区分変更申請について
■ 時価総額100億円以上を目指すための取組みにあわせて、スタンダード市場への市場区分変更を検討する企業も想定されるが、市場区分変更基準のうち「利益の額」(年1億円)が未達の企業も存在
・利益の額を捻出するために成⻑投資を抑制することは本末転倒
・上場会社としての実績があることを踏まえて、今後、スタンダード市場への市場区分変更申請にあたって適用する形式要件は、上場維持基準と同じ(「利益の額」の基準はなし)とする
・新基準(5年100億円)の適用開始(2030年)よりも前に市場区分の変更を検討することも考えられることから、本取扱いは、2025年中を目途に適用開始を想定。あわせて、プライム市場からスタンダード市場への移⾏も同様の取扱いとする想定
5.グロース市場上場企業へのサポートについて(現時点)
■ 東証は、新たな上場維持基準への適合や⾼い成⻑の実現を目指し、積極的に取り組む企業のサポート・グロース上場のメリットの創出を⾏っていくため、スタートアップ経営者と継続的に意⾒交換を⾏い、市場関係者とも連携・協働しながら、以下の施策を進めていく
<働きかけ、検討材料の提供(ガイダンス)>
・「⾼い成⻑を目指した経営」の実現に向けた対応の働きかけ【2025年9⽉】
上場企業に対して、成⻑状況の分析・評価、成⻑戦略のアップデート、投資者への開示を働きかけ
・取組みのポイント・好事例の提供【2025年秋】
⾼い成⻑の実現に向けてグロース市場上場企業に期待される取組みのポイントや好事例を取りまとめ、提供
・グロース市場上場企業への啓発活動【随時】
対応ポイントや好事例を用いた、経営者/実務者へのセミナー・個別説明
<投資家との接点、指数>
・取組みの⾒える化、機関投資家・アナリスト等との接点づくり【2025年夏〜】
積極的に対応を進める企業やその施策内容の一覧化・周知、対話機会の提供
・指数への組み入れ
TOPIXの⾒直し(2026年10⽉からグロース市場上場企業も順次採用)
新興企業の成⻑性に着目した新たな指数の開発
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