第23回「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」について

2025年9月2日に開催された第23回「市場区分の見直しに関するフォローアップ会議」(以下、「当会議」)では、「「資本コストや株価を意識した経営」に関する今後の取組みについて」「グロース市場における今後の対応」「スタンダード市場における今後の対応」「プライム市場の英文開示義務化後の状況について」のテーマについて議論されました。
本稿では、当会議において取り上げられたテーマのうち、グロース市場の上場維持基準の見直しもあり上場企業数の増加が見込まれる「スタンダード市場における今後の対応」の概略を取り纏めております。

スタンダード市場における今後の対応(2025年9月2日開催当会議資料より)

以下の内容について議論がされました。

⑴スタンダード市場の現状

□ スタンダード市場の上場会社の経過年数、業種
 ■スタンダード市場の上場会社は、プライム市場と同様、上場後経過年数が長い企業が多い(上場後20年以上の企業が70%を占め、そのうち50年以上の企業は20%)
 ■業種についても偏りなく、さまざまな業種の企業が上場している(上位よりサービス業13%、情報・通信業11%、小売業11%、卸売業10%、機械6%、電気機器6%、化学5%、建設業4%等偏りなく存在)

□PBRとROEの分布
 ■PBR1倍割れ企業が59%(プライム市場では44%)、ROE8%未満の企業も59%(同43%)とそれぞれ過半数
  ⇒スタンダード市場においても、引続き資本コストや株価を意識した経営を進めていく必要がある

□資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた取組み
 ■スタンダード市場上場会社の開示率は52%(検討中含む)に留まっており、プライム市場(92%)と比較して、検討・対応が遅れている状況
 ■自社の資本コストや資本収益性の把握は一定程度進んでいるものの、取締役会における分析や、それを踏まえた経営戦略等の見直しに繋がっていない企業が多い(中期経営計画等のKPIも依然として売上・利益が中心。ROEをKPIとする企業は36%(プライム市場では71%)、ROICをKPIとする企業は6%(同23%)であり、プライム市場と比較しても少ない)

□流動性(時価総額、売買代金)
 ■スタンダード市場上場会社の時価総額の中央値は82億円(2025年7月22日時点)、1日平均売買代金の中央値は1,600万円(2024年8月1日から2025年7月31日までの1日平均)。プライム市場上場会社は時価総額の中央値1,000億円、1日平均売買代金の中央値3.2億円と大きな開き
  ⇒流動性の問題から、機関投資家による投資やエンゲージメントの対象となりにくい企業も多い

□株主構成
 ■親会社やその他の関係会社、オーナー社長や創業家等の支配株主を有する企業が他の市場と比べても多い
 ■全体としても、政策保有等により、プライム市場と比較して、流通株式比率の低い企業が多い(プライム市場では流通株式比率50%未満の企業は35%であるのに対し、スタンダード市場では流通株式比率50%未満の企業が65%)

□社外取締役の選任状況
 ■スタンダード市場の上場会社においても85.3%の企業が2名以上、59.3%の企業が3分の1以上の独立社外取締役を選任しており、コーポレートガバナンス・コードの策定以降、独立社外取締役の選任が進展(なお、プライム市場の上場会社では、98.8%の企業が3分の1以上の独立社外取締役を選任)

⑵市場関係者(機関投資家等)の声

□IPO
 ■スタンダード市場へのIPOを検討する動きもみられるが、スタンダード市場への上場の魅力を打ち出すべきとの意見や、スタンダード市場が新たな「上場ゴール」の場となることを懸念する声が聞かれた

□既上場会社の実態
 ■スタンダード市場の上場会社においても、少しずつ株主と向き合い、企業価値向上に取り組む必要性が認識されつつある
 ■一方で、大株主の存在や流動性が少なく投資家が入りにくい、緩やかな上場維持基準などから危機感に乏しい企業が多いとの指摘

□資本コストや株価を意識した経営
 ■資本コストや株価を意識した経営への対応については、現状分析に留まり、資本収益性の改善に向けた具体的な取組みまで議論が及んでいない企業や、市場規模自体が限定されている中で、成長ストーリーをどのように描くか課題となっている企業が多い

□少数株主保護・ガバナンス
 ■少数株主を考慮した経営が行われていないとの意見や、社外取締役の比率は以前より高まっているがその実効性を懸念する指摘

⑶当会議メンバーからの主な意見(議事録より抜粋)

■スタンダード市場がやはり課題だと感じる。資本コスト経営に関する開示が進んでいない点は大きな問題であるし、PBR1倍割れの企業が全体の59%で、ROEも低い状況。成長・価値創造を促していくというアプローチとともに、しっかりと規律を守り、M&Aなども促しつつ、新陳代謝も進めていくという、両方のアプローチが必要

■スタンダード市場へのIPOが「上場ゴール」にならないようにすることが肝要。上場後に求められる責務をしっかりと示して、「上場ゴール」を目的とした上場を極力排除する必要がある

■スタンダード市場の実態を踏まえると、上場会社を類型化するアプローチが必要。株主構成を例に挙げると、支配株主等がいる上場会社と、いない上場会社とは実態が大きく異なり、具体的な処方箋としてのアプローチも異なる。支配株主等がいる上場会社であれば、その独立社外取締役の役割として、支配株主からの独立性を有し、少数株主の立場を代弁する行動をとることが求められる

■最低限守るべきものは少数株主保護だと考える。少数株主保護の実現のために特にピンポイントに効かせるものがあるとしたら、一つはボードの構成としての独立社外取締役の役割で、もう一つは流動性の担保。この辺りのポイントにフォーカスし、基準の見直しが必要であれば実施しても良い

■少数株主保護が最後の砦・最低限の義務であり、それが守られているかどうかが重要。流動性や分布の問題は、それ自体の問題以上に、流動性が低かったり分布が偏っているために結果として少数株主保護やその他の問題を改善させる牽制が効きにくくなることが、大きな問題。したがって、少数株主保護、流動性・分布の改善を中心に、最終的には上場維持基準かその運用をしっかり見直し、東証としてクオリティコントロールをしていく必要がある。非常に重い問題だが、こうしたことに取り組まなければならない時期に来ている

■現状のスタンダード市場は「3つの市場区分においてベースとなる市場」になっていない。資本コスト経営の開示が半数以下、PBR1倍割れが6割、ROE8%未満も6割と厳しい状況。黒字ならそれで良いといったように、バランスシート、資本コスト、キャピタル・アロケーションへの意識も希薄で、IRも積極的に実施しておらず、そういった状況で上場していて良いのか疑問もある。
多くのモラルハザードが生じているようだが、一つの要因として、流動性をあえて低くして機関投資家が入ってこない状況にとどめているケースもあると思われ、こうした逃げ場がある状態を放置するのも非常に危険

■スタンダード市場の上場会社数はプライム市場と大きく変わらず、上場会社数の面でインパクトがある市場であり慎重な議論が必要。
市場改革の中でスタンダードの定義が一度決められてはいるが、再定義または再確認が必要ではないか。また、再定義するだけでなく、問題が見受けられるということは明確にメッセージとして発信すべき

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