IPOにおける役員報酬検討に関する委員会等の設置動向等

 近年のコーポレートガバナンス改革の中で、2021年3月1日の会社法改正により、指名委員会等設置会社を除く上場会社等における「報酬等の決定方針」について取締役会で決定することの義務づけや、2021年6月に改訂されたコーポレートガバナンス・コードにおいても、独立社外取締役を主要な構成員とする独立した指名委員会・報酬委員会の設置について触れられるなど、役員報酬決定プロセスの明確化などの役員報酬に関する改革が進展しております。
 本稿では、2021年1月から8月までのIPOにおける役員報酬検討に関する委員会等の設置動向等について、必要に応じて2020年の状況も踏まえて取りまとめております。

2021 年 1 月 ~8 月までの設置状況一覧 (上場承認日に東証HPに公表された各社のコーポレートガバナンス報告書等より作成)

2021年における委員会等の設置状況

 2021年1月から8月までにIPOした66社において、委員会等を設置(上場後に設置予定という開示をしている会社も含む)している会社は20社となっており、2020年の設置会社数16社(上場後に設置予定という開示をしている会社も含む)を上回り、委員会等を設置する会社数は増加傾向にあると考えられます。
 上場会社数に占める委員会等の設置会社数の割合は、2021年1月から8月までで30.3%となっており、こちらも2020年の17.2%を大きく上回る水準で推移しております。
 また、上記表中の表示灯株式会社のように取締役の報酬等の内容を審議・答申する委員会とは別途で、執行役員の報酬等の内容を審議・答申する委員会を設置しているケースも出て来ております。

上場市場別の設置状況

 2021年1月から8月までの委員会等の設置会社20社の上場市場別の内訳は右表の通りです。
 東証1部上場会社は全社が設置しておりますが、これは来年4月の市場区分変更後も踏まえて、よりレベルの高いコーポレートガバナンス体制を志向したものと推察されます。
 一方で、東証マザーズ上場会社においても4分の1程度の会社が設置している状況ですが、これは、東証マザーズ上場会社では次の項目「委員会等の設置と支配株主の有無との関連性について」に記載の支配株主が存在している会社が比較的多く見られることから、ガバナンス体制強化の観点や、所謂オーナー会社系において見受けられるとされている役員報酬決定のお手盛り感を排除すること等を目的として設置する会社が多かったものではないかと推察されます。

委員会等の構成状況等について

 2021年1月から8月までの委員会等の設置会社20社の上場市場別の内訳は右表の通りです。
 設置会社20社の半数近くの45%が委員会等の人数を3名としており、次いで多い5人の割合30%を含めると、奇数の構成人員数としている会社が75%となっております。
 委員長としては、社外取締役が就任している会社が圧倒的に多く75%となっており、委員会等の仕組み的にも役員報酬決定プロセスの透明性の確保に努めている会社が多かったものと推察されます。

委員会等の設置と支配株主の存在との関連性について

 上表の通り、支配株主を有している会社における委員会等の設置状況は、設置社数・設置割合共に増加傾向となっております。
 また、支配株主が代表取締役社長等(資産管理会社等含む)である場合の設置状況は、2020年は44社中5社が設置しておりますが、2021年1月から8月までは25社中10社が設置しており、所謂オーナー会社系においても委員会等の設置が増加傾向となっております。
 ※「支配株主」の定義については、東証のコーポレート・ガバナンスに関する報告書記載要領において、下記の通り規定されております。
  次の①②のいずれかに該当する者が支配株主にあたります(上場規程第2条第42号の2、同施行規則第3条の2)。
   ①親会社(財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下、「財表規則」といいます。)第8条第3項に規定する親会社をいいます。以下同じ。)
   ②主要株主(金商法第163条第1項に規定する主要株主をいいます。以下同じ。)で、当該主要株主が自己の計算において所有している議決権と、
    次の➂④に掲げる者が所有している議決権とを合わせて、上場会社の議決権の過半数を占めている者(①を除きます。)
   ・➂当該主要株主の近親者(二親等内の親族をいいます。以下同じ。)
   ・④当該主要株主及び③が、議決権の過半数を自己の計算において所有している会社等(会社、指定法人、組合その他これらに準ずる企業体
     (外国におけるこれらに相当するものを含みます。)をいいます。以下同じ。)及び当該会社等の子会社

総括

 従来は、かなりの割合の会社で役員報酬決定に関しては最終的に代表取締役社長に一任する形が多かったものの、既述の通り、直近のIPO会社においては全体的に役員報酬検討に関する委員会等を設置する会社が増加している傾向にあります。
 設置している中では、代表取締役社長等(資産管理会社等含む)が支配株主として存在している会社が多いことが特徴的である一方で、2021年1月から8月までのIPO会社の中で、IPO時の有価証券届出書において「報酬等の額が1億円以上である者の報酬等を」を開示している会社が2社ありますが、2社とも委員会等を設置しており、高額な役員報酬が支払われているような場合でも報酬金額決定のプロセスがより重視されていることが推察されます。
 なお、会社としてより良いコーポレートガバナンス体制を構築する中で、設置についての必要性の有無や、設置する場合においても委員会の体制等は、個々の会社の実態等に応じて十分検討されることが必要と考えられます。

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